Sayalay's Dhamma book

長年、当ブログにおいて逐次公開しましたテーラワーダ系仏教書翻訳文は、<菩提樹文庫>にてPDF版として、正式に公開されています。<菩提樹文庫>WEBをご閲覧下さい。

パオ・セヤドー問答集~#084,085>問答(八)問8-5,8-6

☆11月より長期リトリートに入る為、公開の翻訳文が少し多くなっています。よろしくお願いいたします。

#084-150823

問8-5 ある個人に慈愛を拡散・届けようとする時、相手は何か利益を得る事ができますか?

答8-5 これは非常に難しい問題です。いわゆる「難しい」とは、あるいはその人は心が(よい方へ)変わるかもしれませんが、ただ、それだけの事です。これ以外に、私はその人が何かよい利益を得られるという事を断定する事はできません。

ロージャマッラ(Roja-mlla)の例を上げましょう。彼はアーナンダ尊者の友達でした。ある時、仏陀が多くの比丘を連れてクシナーラー(Kusinārā)に行きました。クシナーラーのマッラ族(Malla)の人々はこの知らせを聞いて、みんなで一つの約束をしました。仏陀を出迎えにこない人は、500銭の罰金を取るというものです。マッラ族の人々が仏陀を迎えに出てきた時、ロージャーマッラもその中にいました。アーナンダ尊者は、彼も皆と一緒に仏陀を出迎えにきたのを見て、とても喜びました。ただ、声をかけてみると、彼は仏・法・僧に対して全く信をおいておらず、単に罰金が怖くて無理やり皆と同じ行動をとっていただけなのでした。その為、アーナンダ尊者は、僧院に戻った後、ロージャマッラが仏法に対して信が生まれるように、仏陀に何か方法を考えてほしいとお願いしました。仏陀は常に、一切の衆生に対して慈愛を拡散していますから、彼の慈心観は非常に強いのです。アーナンダ尊者の願いを聞き入れて、仏陀はすぐにロージャマッラに慈愛を送り、その後に立ち上がって、住まいに戻りました。

その時、ロージャマッラは仏陀の慈愛を受け取って、彼の心は変わりました。彼はお寺に来て、まるで子牛が自分の母親を探すように、必死に仏陀を探しました。彼が仏陀に会った後、仏陀は彼の為に説法しました。説法を聞いた後、彼は初果須陀洹を証悟しました。彼の心が完全に変化したので、初果を証悟する事ができたのです。この例で言えば、彼が初果を得る事によって、我々は、彼が利益を得たと言えると思います。しかし、その人の心に変化がないのならば、ある種の利益が生じるかどうか、何とも言えないと思います、デーヴァダッタ(Devadatta)の例のように。というのも、仏陀はデーヴァダッタに慈愛を送りましたが、デーヴァダッタの心は変わらず、ただ、臨終の時になって、ようやく変わったのでした。

もう一つの例は、ナーラーギーラ大象です。ナーラーギーラ大象が仏陀に出会った時、彼女は酒に酔い、凶暴な状態でした。当時、彼女は仏陀を攻撃しようとしましたが、仏陀は彼女に慈愛を送りました。突然、彼女の心は変化して、仏陀に敬礼しました。これは利益と言えるかもしれません。

話を戻せば、デーヴァダッタが地獄に落ちようとした時、仏陀はいつもそうするように、一切の衆生に慈愛を送りました。しかし、仏陀の慈愛も彼が地獄に落ちる悪運を取り除く事はできませんでした。その上、仏陀の時代から現代にいたるまで、多くの人々が死んでおり、自分の悪業によって、死後、四悪道て苦しみを受けています;しかし、我々は、慈愛を送る事によって彼らを救済する事はできないのですから、我々は、(慈愛を送ることが)彼らの利益になると、どうして言えるでしょうか?

このように、慈心観の利益は、特に、修行者自身の利益に留まるという事です。仏陀は≪増支経 Aṅguttara Nīkāya≫の中で、慈心観には11種類の利益があると述べています。これらの利益はただ修行者についてのみ言及されています。修行者にとっては決定的ですが、その他の人々には不確実なのです。

#085-150823

問8-6 修行者は謝恩の心でジャーナに到達する事ができますか?

答8-6 これは非常に難しいです。「非常に難しい」というのは、謝恩の心というのは、ただ他人から受けた恩恵を知っていると言うの事に過ぎません。他人の恩恵を知っていると同時に、彼が系統的に慈心観を修行して、相手に慈愛を届ける事ができたなら、彼はジャーナに到達する事ができ、その時には、慈心観の利益も生起します。謝恩の心だけでは、ジャーナに到達する事はできません。

 (翻訳文責 Pañña-adhika sayalay)

 

初めてご来訪の方へ:上記は、台湾より請来した「禅修問題与解答(パオ禅師等講述)」(中国語版)の翻訳です(仮題「パオ・セヤドー問答集」)。「智慧の光」「如実知見」の姉妹版として、アビダンマ及びパオ・メソッドに興味のある方のご参考になれば幸いです。(一日又は隔日、一篇又は複数篇公開。日本及び海外でリトリート中はブログの更新を休みます)。