<Idaṃ me puññaṃ nibānassa paccayo hotu>
山中の洞に到着した最初の真夜中、メーチ・ケーウが深い定から出て来て、彼女の意識が、外に向かって流れ始めた時、大きな蛇に似た精霊に、出会った。
彼女は即刻、それが一匹の龍である事に気が付いた。
この種の、心識の形態で存在する衆生は、地下の洞穴か、または洞の下の水脈に住んでいる事が多い。
メーチ・ケーウは龍の、随意に外形を変える事のできる能力に、非常に興味を持った。
通常、彼らは、人に化身して、出現する。
その龍は乱暴に、己が化身した所の、龍の体をメーチ・ケーウに巻きつけて、頭を上げて、彼女の顔に近づけ、軽蔑するような語気で、脅すように言った:
太陽が出る前に、すべての尼僧たちを食べてやる。
メーチ・ケーウは、死を恐れない時に発揮する力をよく知っていたので、この巨大な龍の頭を見ても、興奮する事もなく、冷静に警告した。
愚かで乱暴な行為の齎す果報について、よく考えるように、と。
彼女は、メーチとは、仏世尊ーー無上正等覚者ーーの娘である事、彼が侵犯してはならない存在である事を、忠告した。
その龍は、己の考えに固執していたが、メーチ・ケーウは、もし、本当にすべての女性たちを食べてしまうと言うのならば、まず私から食べなさい、と挑発した。
龍は、即刻、大きな口をパックリと開けて、彼女を攻撃しようとした。
この時、メーチ・ケーウの功徳による神秘な力が顕現されて、その大きな口が燃え始めた。
龍は余りの痛さに、大声で哭いた。
その龍は、最後には折伏され、化身は礼儀正しい、友好的な、普通の青年の姿に変り、女性たちが彼の洞に住む事を許可する、と約束した。
龍は調伏されたものの、この異類は、己の気性を治すという事はなく、毎日、あちらに飛んだり、こちらをかすめたり、休む事を知らなかった。
また、彼は洞の真ん中にある石の上に座って、笛を吹くのが好きで、その笛の音は、洞全体に響き渡った。
しかし、彼が、坐禅しているメーチ・ケーウの側に来ると、笛の音は、なぜか小さくなってしまう。
それは音が、笛の中に詰まって、出てこれないかのようであった。
この不思議な出来事に、彼は困惑し、また気落ちした。
暫くして、メーチ・ケーウが、己の笛の音を、コントロールしているのかも知れない、と思い始めると、益々不安になり、彼は彼女の神通の威力に対して、益々感服すると同時に、彼女を打ち負かそうという気持ちも、消え失せた。
ある日、メーチ・ケーウは龍が笛を持って、自分の側を通るのを見て、どこへ行くのかと問うた。
龍は、彼女をからかうように、村に行って、村の娘と恋を語り合うつもりだが、今は、メーチ・ケーウといちゃつきたい、と言った。
彼女は少し狼狽し、彼を睨み付けて、自分は持戒の女性行者であり、彼に興味を感じない、と言った。
彼女は、彼に、基本的な道徳を守らねばならない事を訓告し、戒は品徳の根本である事を強調し、有情の衆生は誰もが、それを愛惜し、保持しなければならない、と言った。
彼女は、彼に、道徳の規範は、柵のようなもので、衆生がお互いの物質的な、または心霊的な財産を侵害しないようにするもので、また同時に衆生の内的な価値を保護し、維持するものだと説明した。
もし、道徳的な節制がない場合、世界は凌辱と混乱の中にあり、いかなる場所も、平和で静かではありえなくなってしまう。
メーチ・ケーウは、また、この年若い龍がこれ以上、道徳を軽視しないよう、仏法に基づいて、悔い改めて、生まれ変わるべきだと、懇ろに忠告した。
もし、このような廃退的な心態を、改めることができたならば、己自身も、その他の衆生も、共に安らいで楽しいのだ、とも言った。
彼女の話を聞いて、龍は喜び、従った。
己の過ちを認め、メーチ・ケーウに許しを乞うた。
彼の心が感化されたのを見て、メーチ・ケーウは、一歩踏み込んで、彼に五戒を守るよう勧めた。
(4-38につづく)
<Mama puññabhāgaṃ sabbasattānaṃ bhājemi>
(+ )(= )訳者。句読点等原文ママ。★誤字脱字を発見された方は、
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<原題「美琪喬ーー一位阿羅漢尼修道証果之道」 Dhammavamsa Publication
中国語版→日本語訳出 翻訳文責 Pañña-adhika Sayalay>