Sayalay's Dhamma book

長年、当ブログにおいて逐次公開しましたテーラワーダ系仏教書翻訳文は、<菩提樹文庫>にてPDF版として、正式に公開されています。<菩提樹文庫>WEBをご閲覧下さい。

是誰庵のひとやすみ~中村元博士の想い出

中村元博士(東京大学インド哲学・名誉教授)は、生前、パーリ語の<アナッター>は、「無我ではなく、非我(と訳すべき)である」とおっしゃっていました(<無>と<我>を、どう解釈するかによると思いますが・・・インド人の発想では、<無a>は、単なる<無い>ということではないらしい)。

さて、もう30年くらい前でしょうか?

中村先生が、東京の有楽町の某ホールで講演会を行ったので、私も行ってみました。

3000人は入るホールでしょうか、先生が一通りの説明を終えた後、質問コーナーが設けられたのですが、なんと私はそこで、手を挙げて質問をしたのであ~~る(笑)。

「日本の大乗仏教は戒律を守っていませんが、先生はどのように思われますか?」(大胆不敵というか、盲蛇におじずというか・・・)。

なんと、私の質問を聞いた3000人、一瞬緊張が走り、次には、水を打ったようにシーンとなって、固唾をのんで先生の回答を待っている・・・・

私は「あっ、これは日本の仏教界のタブーなんだ」「聞いてはいけない事柄なんだ」と、その時初めて察知したのですが、時すでに遅し。

先生の答えは「その件は、お答えできない」でした。

仏教徒は、戒律を守らなくてもよいのだ」と言えば仏法に違反するし、「守るべきだ」と言えば、戒律を全然守っていない、日本の仏教界への批判になる。

宗派争いを止め、宗派を超えて仏法を究明しようとした先生としては(そのために自宅を売った資金で、神田湯島に東方学院を建てられたくらいですから)、いらぬ波風は立てたくなかったのでしょう。

私は、10人以上いる集会で質問すると、非常に緊張するタイプで(逆に、10人以下なら安心して、ものすごくしゃべります~苦笑)、後になって、3000人の前で発言したのかと思うと、足が震えました。

先生は温厚で、心のきれいな方でしたから、今頃は天界にいらしゃるでしょうか?それとも人間になって、また仏法の研究に打ち込んでいらっしゃるでしょうか?

今度お会いしたら、また同じ質問をしてみたい。