Sayalay's Dhamma book

長年、当ブログにおいて逐次公開しましたテーラワーダ系仏教書翻訳文は、<菩提樹文庫>にてPDF版として、正式に公開されています。<菩提樹文庫>WEBをご閲覧下さい。

般若の独り言~Vipassanā瞑想の誤解

私が<サマタ・vipassanā>という言葉を初めて聞いたのは、30歳を過ぎた頃に訪ねた、タイの森林僧院での事でした。

私「このお寺では、何を教えているのですか?」

比丘尊者「サマタ・vipassanāです」

私はこれを聞いて、大変に嬉しかったのを覚えています。

というのも、それ以前に『天台摩訶止観』という本を読んでいたのですが、何をどうしたら、何がどうなるのか、余りよく、否、まったくもって、理解できなかったからです(当該書籍を読んだ当時、まだ若くて、前提になる知識がなかったせいも、あるかも知れません)。

そこで「サマタ・vipassanā」を教えて頂きたくて、毎年時間を見つけて、タイの森林僧院に通いましたが、15年の間に教えて頂いたのは、<安般念>のみ。

何年経っても<息の出入り>を観るだけで、「それで、この先はどうなるの?」という疑問と不安で一杯になった頃、パオ・セヤドーの『智慧之光』(中国語版)一書に出会い、ゴータマ仏陀の瞑想は、息を観るだけでなく、その先に、nimittaを観じ、vipassanā に進む修行である事に気が付きました(それで、即刻、緬甸のモーラミャインにある、パオ本山に修行に行きました)。

では、なぜこれほどまでに、サマタ瞑想と

vipassanā 瞑想が混同され、誤解されて、全世界に拡散されてしまったのか。

1)ゴータマ仏陀は「サマタ瞑想(初禅~四禅、非想非非想処までの禅定の瞑想)は、vipassanā(=観)には(直接には)役に立たない」と述べた。

2)安止定(初禅~四禅、同上。すなわちサマタ)に入らないで、安止定の前段階の近行定で、四界分別観を実践する純観行者は、色聚の密集を看破して、阿羅漢になる事ができる。

 ゴータマ仏陀在世の当時、「サマタを成就してから vipassanā を始めるのでは、vipassanā が成就する前に死んでしまう」と訴えた老比丘、老比丘尼たちに、ゴータマ仏陀は、安止定の前段階である近行定のレベルで、色聚の無常・苦・無我を観察する<純観行者>の道を教えました。

これは一種のバイパスであって、この種の行者は、名法を観ずる力が弱い、という弱点があります。

3)上記のいくつかの教えの要素が混同されて、「Vipassanā 瞑想にとって、サマタ瞑想は有害である。サマタをしないで、直接 vipassanāに取り組もう」という国民的運動が、英国から独立した直後の緬甸に起き、これが隣国タイに伝わり、タイから全世界に伝わっていきました(タイに修行に来ていた欧米の人たちが、母国に戻って伝えた。その為、欧米では、マインドフルネス瞑想、vipassanā 瞑想という言葉が、一人歩きしてしまった)。

4)Vipassanā 瞑想の王道は、サマタ瞑想を成就して後、サマタの定に安住しないで(サマタは、瞑想の対象と合一する為、非常に安楽な故、サマタ修行者は一旦禅定に入ると、定から出たくないと思う)、サマタから出て来て、vipassanā(色法と名法の無常・苦・無我を直接知覚する事、すなわち、観禅)の修習をする事にあります。

 正しくは、

5)ゴータマ仏陀の教えの真髄は、

「名と色の究極法(無常・苦・無我)を観察するのが vipassanā 瞑想である。その為には、先にサマタ瞑想を完成させなければならないが、サマタを成就させた暁には、サマタに沈潜するのではなくて、サマタから出て来て、vipassanā(=観禅)をせよ」

6)「サマタの成就は難しいので、サマタを飛ばして、直接 vipassanā(観禅)を始めたい」と思う修行者は、近行定から心を集中させて、四界分別観の実践を通して、nimittaを生じせしめ、身体が氷の様に透明になった時に、色聚・色法の無常・苦・無我を観察する。

これはゴータマ仏陀が許した修行方法で、それを実践する者は、純観行者と言う。

であって、

<サマタは有害だから、サマタ瞑想をやってはいけない。安般念と腹部の起伏の観察とラベリングを組み合わせたものが、ゴータマ仏陀の教えた vipassanā である>

というのは、完全な誤解である事が分かります。

この誤解を解くために、パオ・セヤドーは、経典と《清浄道論》を携えて、何年も森の中で、一人瞑想されたそうです。

その結晶が『智慧之光』。

今では、タイにもパオ・メソッドは導入されています。

Vipassanā 瞑想に関する、世界レベルの誤解が、一日も

早く解けますように。

    <緬甸パオ森林僧院/ヤンゴン分院所属/Pañña-adhika Sayalay般若精舎>